歯のインプラント治療の方法
インプラント治療の流れ
一般的には、骨の条件を改善(このための手術することがあります)した後、骨の中にインプラントを埋める手術をして、数ヵ月待ってもう一度、骨を露出して、仮歯を連結するという2度の手術をする方法が一般的でしたが、今では1回の手術で済ます方法や、歯ぐきを大きく切らずにインプラントを埋める方法、手術直後から噛めるようにする方法など、術式も考え方も様々なタイプのものが登場しています。それぞれ適応症(相応しい条件)、長所・短所があります。
一般的には次の順序で行います。
- 抜歯または歯のなくなった部位とくに骨の診査
- 最終的な人工の歯の形や位置の決定
- 一次手術(チタンの人工歯根を骨の中に埋める手術)
(治癒期間を待つ)
上アゴ10〜16週、下アゴ6〜10週で骨とインプラントが結合
- 二次手術(粘膜を開いて人工歯根に治療用キャップを連結)
- 粘膜が安定したら治療用キャップの代わりに支台と仮歯を装着)
- 仮歯で清掃しやすい形とかみ合わせを模索
- 仮歯に合わせて最終的な人工の歯を製作し、装着
インプラントの適応条件を広くするために、②以前にインプラント予定部位に骨移植をすることがあります。
骨の条件を改善する処置を③と同時に行うこともあります。
上のアゴでは上顎洞底を上に挙げる手術を③と同時または③の前に行うことがあります。
また、外見を良くするために骨や結合組織を移植することがあります(①の前、③と同時、④と同時)。
骨の中に植える人工歯根とそこにつなげる支台部分(口の中に出る部分)が一体化されたインプラントでは③と④を分けずに1回の手術で行います。
抜歯①から一体化されたインプラントの植え込みまでを1日でやってしまう方法もあります。
インプラントの材質
かつてのインプラント(1980年代まで)は、材料も貴金属をはじめ人工サファイヤ(京セラ)、アパタイト(ペンタックス)など様々で、形態も術式も多様なものが試されては消えていきました。1980年代にわが国で広まった人工サファイヤ(京セラ)は、いまでも多くの人のアゴの中で働いています。その後、専門家の間でチタンのネジ型インプラントの評価が高まって、インプラント治療は飛躍的に信頼性を得ました。2010年時点で、世界の130社を超えるメーカーがチタンインプラントを製造していますが、形状、表面性状、支台装置の接続方法、サイズは極めて多様です。治療を受けて期間が経過してから別の医療機関で修理をする場合には、インプラントのメーカーやサイズを知る必要があります。インプラント治療では、インプラントのメーカーやサイズを聞いて記録しておくべきでしょう。
「1回の手術法」と「2回の手術法」の比較
いったん骨の中に人工歯根を埋めて、骨とインプラントが結合するのを待って(通常、上アゴ10〜16週、下アゴ6〜10週)、再び歯ぐきを開いてその人工歯根にアバットメント(支台装置)と呼ばれる部品を連結し、そこに仮歯を装着するという手順がチタンのネジ型インプラントの典型的な処置法でしたが、この人工歯根とアバットメントを一体化したものが2005年ごろから次第に増えています。患者にとって手術回数が少ないというメリットが強調されていたのですが、アバットメントと一体化したインプラントの方が、周囲の骨が下がらないことが分かってきました。このため、一体化したインプラントを1回の手術で埋める方法が増加しています。
「抜歯直後」と「抜歯窩が治癒してから」の比較
とくに前歯について、インプラント周囲の骨を保存し、外見上、自然な歯に見えるような治療をするために様々な工夫がされてきました。そのような工夫のひとつとして、歯を慎重に抜歯して周囲の骨を保存し、そこにインプラントを埋めてすぐに人工の歯をつけて機能させるという方法が盛んに試みられています。この方法は、手術が1回で済むだけでなく、歯のない期間がないため都会の患者に好まれ、米国ではブリッジの治療よりもむしろこのようなインプラント治療の方が安価であるため、これまでブリッジで処置されてきた1〜2歯の欠損がこの抜歯即時埋入という方法で処置されるようになる傾向にあります。さらに米国では、重度のむし歯や神経の治療(根管治療)の治療費が非常に高いので、自分の歯を治療することが敬遠され、すぐに抜歯されてインプラントになる傾向があります。
しかし、抜歯後すぐにインプラントを埋めて機能させることは、インプラント周囲の骨を温存する上では効果は乏しく、他方、2回法でインプラント周囲の骨を高く維持する方法が明らかになってきましたので、抜歯直後インプラントのメリットは、手術回数が少ないことだけと言っていいでしょう。抜歯直後では、最終的な治療結果の設計が難しく、インプラントを埋め込む方向などに制約が生じます。
なお、人工歯根に比較して細い径のアバットメントを用いると周囲の骨の再生が得られる確率が高いことが分かってきました(Lazzara, 2006)。前歯のインプラントでは、とくに薄い骨を保存する必要があるので、長期的にきれいな外見を保つことが難しかったのですが、今ではインプラントを埋め込む位置で骨の高さがコントロールできるようになっています。